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ある日の出来事だった。
所用で都心に出かけていた僕は、夕方少し前に地元の駅へ戻ってきた。 いつものようにSuicaを取り出し、駅の改札を潜り抜ける。 次の瞬間、電子音が鳴ったかと思うと、ゲートが閉じて行く手を阻んだ。 Suicaにチャージは十分してあるはずだ。僕はいぶかしく思いながら、仕方無しに駅員のいる窓へ回った。 「改札通れなかったんですけど・・・」 やや苦情の意を込めてそう告げる。 だが駅員は謝罪するどころか、無表情で僕の顔をじっと見つめると、こう言った。 「ああ、呪いですね」 「・・・呪いってどういうことですか?」 僕は苛立ちと当惑が入り混じった思いに駆られながら聞き返した。 すると駅員は不意に悲しげな表情を浮かべ、申し訳なさそうに幾度も頭を下げた。 「申し訳ありません。接触が悪かったようですね。どうぞ、もう一度タッチしていただければ通れますので」 「いや、呪いって何のことですか?」 僕の質問に、駅員は困ったような表情を浮かべる。 「は?何ですか、呪いって?」 「いや、あなたが言ったんでしょう?」 「いえいえ、私はそんなこと申しませんよ・・・」 らちが明かない。釈然としなかったが、急いでいたこともあり、僕は足早にその場を去った。 小腹が空いていた。駅を出てコンビニに立ち寄った僕は、飲み物や食べ物数点を持ってレジの前に立った。 「551円です」 と店員が告げる。僕が財布から小銭を取り出そうとした、次の瞬間だった。 大量の小銭が、派手な音を立てて床に飛び散った。 僕は慌てて床に屈み、小銭を拾い集めた。店員がレジ打ちを中断し、一緒に手伝ってくれた。 「すいません、ありがとうございます」 僕が礼を言うと、店員は小銭を拾う手を止め、無表情で僕の顔を見て、静かに口を開いた。 「呪いですね」 「・・・はい?」 僕は必死に言葉を搾り出した。先程の駅員といい、一体何だというのだ。 「呪いって、何ですか?」 僕が言葉を続けると、店員は不意に笑顔になり、小銭を拾う手を再び手際よく動かし始めた。 「何のことですか?」 「あなた、呪いっておっしゃいませんでした?」 「私がですか?いえ、そんなことは言っていませんが・・・恐らく、これで全部だと思います。はい、どうぞ」 店員は集めた小銭を僕に差し出すと、レジカウンターの前に戻っていった。 頭が混乱していた。冷静になろうと試みたが、とても無理だった。店員を問い詰めたかったが、次々と客がレジに並び始めたので、僕は諦めてコンビニを後にした。 その夜、ひょんな展開から女の子と寝ることになった。 かなり可愛らしく、スタイル抜群の女の子とである。一晩のアバンチュールというやつもたまには悪くない。 薄明かりだけを灯した部屋で、僕らは時間をかけて抱き合った。ムードは最高潮に達し、さぁこれから…というところで、思ってもない事態が発生した。 不能になってしまったのだ。 僕は頭を抱えたくなった。よりによって、なぜこのタイミングで。 僕は彼女に背を向け、必死に精神を統一させる。だが、焦ってもどうにもならなかった。 「どうしたの?」 僕の異変に気づいた彼女の声が、薄闇から聞こえてきた。 「いや、ちょっと、その・・・」 僕は言葉を濁したが、しらけた空気は明らかに彼女に伝わっているようだった。先程までのムードはたちまち消え、重苦しい沈黙が部屋を支配した。 不意に、彼女が言った。 「呪いのせいね」 「・・・何だって?」 僕は彼女の方を振り返り、めまいがするのを感じながら、かすれた声でそう言った。 駅員といい、コンビニ店員といい、彼女といい、一体何者なのだ。 そもそも、呪いとは何だろう!一体僕が何をしたというのだ! そう思った瞬間、僕の理性は弾け飛んだ。 「訳が分からない!何だよ、呪いって!教えてくれよ」 僕がそう叫ぶと、しばしの間のあと、彼女はポツリと呟いた。 「伊参と深大寺よ」 「・・・何のことだよ?」 「あなた、過去に伊参スタジオ映画祭コンクールと、深大寺恋愛小説コンクールに落選してるでしょ?その呪縛が、あなたを苦しめているのよ」 「・・・!?」 言われて思い当たった。彼女の言うとおり、確かに僕はかつて「伊参スタジオ映画際」と「深大寺恋愛小説コンクール」に応募し、落選した過去がある。そしてリベンジに闘志を燃やすこともせず、のうのうと暮らしてきたのだ。 そういえばその二つのコンクールは、今年ももうすぐ締め切りのはずだった。 「僕は、その二つのコンクールに入賞する必要があるのか?」 僕の言葉に、彼女はあっさりと頷く。 「ええ、そうよ。簡単な話じゃない。面白い話を描けばいいだけ。ね?」 「もしまた落ちたら?」 「呪いは解けないわ。あなたは一生苦しむことになるの」 冗談じゃない。いつまでも呪いなんかに縛られるのはたまったものじゃない。 僕は慌てて下着を履いた。 「描くよ、オレ。今すぐ描いて、コンクールで賞を取るよ!」 彼女は微笑むと、僕に向かってウインクをした。 「がんばってね。呪いが解けたら、今日の続きをしましょうね」 いさま http://www8.wind.ne.jp/isama-cinema/ じんだいじ http://chofujintanren.blog69.fc2.com/ |
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演劇集団(?)ムーンバーク 立ち上げ公演
−ジャンゴ− 4月25日(土)・26日(日) @ ひつじ座(阿佐ヶ谷) 地図はこちら↓ http://www.aries-net.jp/hitsujiza/map.htm START 14:00/18:00 TICKET 1500円(前売/当日) -STORY- 「お前に必ず会いに行くよ。約束する。」 1930年代のパリ −衝撃が世界に走った−伝説のギター&バイオリン。 三本指の天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト 心に迫るバイオリンの詩人、ステファン・グラッペリ 軽妙洒脱で奔放で、それでいてたまらなく哀切で・・ そんな音を体が覚えている。 2008年、東京。 誰もが心を擦り切れさせながら、生きている。 諦めや虚しさを、はったりと酒とタバコと 取ってつけた軽薄さで紛らわしながら。 でも、いつの日か、出会う、そして目覚める。 前世から繋がる想いが、旋律が そして新しい絆が生まれる。 「ジャンゴにあいたい・・・。」 チケットは以下から予約できます。 どうぞよろしくお願い致します。 ↓ http://moonbark.web.fc2.com/ |
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「強いんですね」
マスターはハイネケンの瓶の口にライムを滑り込ませ、ナッツの盛られた小皿と共に、青年の前に差し出した。 「そんなことないです。ただ今日は、ちょっと飲まずにいられない気分なんで」 カウンター席に座る青年は、そう言ってマスターに微笑を向け、6本目のハイネケンを口に運んだ。 店内にはジャズが流れている。ビル・エヴァンスのピアノ・トリオの曲だ。 青年は眠そうな眼差しを中空に漂わせながら、まるで機械仕掛けのような無機質な動作で、ハイネケンの瓶を空にした。音楽に合わせて、カウンターの上に乗せた青年の左手の指が、無意識に踊っている。 「バンド、抜けることになったんですよ」 不意に、青年は言った。それは独り言のような口調でもあり、マスターは一瞬、返事をするのをためらった。 「それはまた、どうして?」 「僕には、音楽以外にやらなきゃいけないことがあるんです。だから、辞めたんです・・・けど、何でしょうね。この空虚感というか、寂しさは」 青年の指先は踊り続ける。どうやら彼はピアノを弾いていたらしいと、マスターは察した。 「分岐点ってやつは、誰のところにもやって来ますからね。私もそうですよ。今の女房と出会う前、心から愛していた女性がいたんです。ささいなケンカで別れていまったのですが、あのまま彼女と結婚していたらどうなっていたんだろうとたまに思いますけど、答えなんか誰にも分からないんですよね」 マスターは言った。 先ほど、熟年のカップルが店から出て行ったため、店内に客は青年一人しかいなかった。 「そうですね、誰にも分からないですよね。ただ・・・」 青年はたっぷり十秒ほどの沈黙の後、笑顔を見せながら言った。 「決めたからには、その道を進むしかないんですよね。もう、引き返せない」 マスターも微笑み、青年が空にしたハイネケンの瓶を下げた。 「先ほどあなたが言った、音楽以外のやらなきゃいけないことって何ですか?」 マスターが尋ねる。 「物書きです。僕には書くことしかないんです」 言いながらも、青年の指はカウンターの上で鍵盤を叩き続けている。 マスターは優しく言った。 「もう一杯、いかがですか?」 青年は答えず、バッグからCDを取り出すと、マスターに手渡した。 「リクエスト、いいですか?」 マスターはうなずき、CDをセットした。 スピーカーから曲が流れ始めた。 『嘘だろう?どうしてなんだろう?全てが今、壊れかけてる 寂しくて かき混ぜた涙は今 明日に変わる やりたいことをやって来た これからもきっと変わらない 変わってゆく 隣を見ながら 雨の降る朝は 雨で踊る 傷が痛む日は 傷で踊る はねる 歌うんだ・・・』 「これ、僕がやってたバンドの曲なんですよ」 青年は目を細めて呟いた。 「素敵な曲ですね。思わず踊りだしたくなります」 マスターが言う。 「でしょ?」 青年は得意げに言った後、マスターに告げた。 「ハイネケン、もう一杯」 「かしこまりました」 音楽はいつの間にか、まるで潮のように、バーの空間に満ちていた。 青年はカウンターに置かれたハイネケンに手をつけず、ぼんやりと音の波間を漂っていた。 『月が照らす夜は 固く頷いて 星の12時は この日々照らす 照らすんだ 照らす 照らすから・・・』 【2年間、応援ありがとうございました!】 http://bowlingman.uijin.com/ |
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駆け出しライターの頭を悩ます事柄の一つに、原稿料の問題がある。
あらかじめ原稿料が設定されている案件なら気は楽なのだが、僕自身が原稿料を設定し、 提示しなければならないときがある。その駆け引きがなかなか難しいのだ。 まず、現状を把握してみよう。 現在、僕が欲しいのは仕事だ。それも、コンスタントに。 であれば、原稿料を廉価にしてでも、数多くの案件を引き受けたほうが良い。 勿論、そうすることによって生じる弊害は幾つもあるが、それで潰れてしまうようでは、 職業的なライターを生業にすることは不可能だろう。 と言うわけで、現在の僕は、飲食店に例えると「はなまるうどん」の方式で(とはいえ、 勿論原稿の質を下げないことと、独自性を込めることは忘れていない)、 ライター活動をしているのである。 ところで先日、こんなことがあった。 原稿料は現物支給でお支払いしたのですが、とその依頼主は言った。 そのような提案をされたのは初めてだった。僕は目を丸くして尋ね返した。 「現物支給ですか?というのは、つまり・・・」 「ええ、現金ではなく、品物でお支払いしたいということです」 淡々とした口調で、依頼主は言った。 「ですが、その・・・」 僕は思わず口ごもった。 僕にだって生活があるのだ。足元を見られて、お歳暮の余りのような品物を差し出されても、 納得はとてもできない。 そんな僕の心配を察したかのように、依頼主は言った。 「もちろん、現物支給だからと言って、対価が低いものを差し上げるわけではありません。 ご安心ください」 「はぁ・・・」 対価が変わらないのなら現金でくれても同じじゃないか、 と僕は思いながらも、相手の話に耳を傾けた。 僕は駆け出しのライターなのである。筆記用具・ICレコーダーと同じくらい、 我慢は必須のアイテムなのだ。 「それで、何をいただけるのでしょうか?」 話だけでも聞いてみようと、僕は尋ねた。 「はは、実は三種類用意しているのですが、 こういうのはゲーム的要素があっても良いんじゃないかと思いましてね。 どうです?アミダクジで選んでもらうというのはどうでしょう?」 「アミダクジ?」 「ええ。A、B、Cのどれかを選んでもらっていいですか?」 依頼主は言った。幾ら何でもそれはふざけすぎではないか。僕は内心ムッとした。 そもそも、僕と依頼主は電話で会話をしているのだ。 現場を確認できずにアミダクジをされるということは、 これからイカサマをされるのを黙って見過ごすようなものである。 けれど、僕は喉まで出かかったその言葉を飲み込んだ。考えようによっては、 こういう体験が後に面白いネタになるかもしれない。 仕方ない、授業料と引き換えに、今回の案件の原稿料は諦めよう。 僕はそう思い、依頼主に言った。 「Bでお願いします」 「分かりました、Bですね」 依頼主は言うと、弾んだ声でメロディーを口ずさんだ。 「何が出るかな、何が出るかな♪」 それはアミダじゃなくごきげんようのテーマ曲だろと思いながら、僕は黙って聞いていた。 やがてメロディーが終わると、依頼主は甲高い声で言った。 「はい、おめでとうございます!当たった賞品は・・・パジェロです!」 それも番組違いだろ、と僕はぼんやりと思った。 そして一週間後、三菱自動車の社員が、パジェロを運転して僕の自宅までやって来た。 「これからのシーズン、行楽にはぴったりですね」 僕は曖昧に微笑んだ。残念ながら、僕は根っからのインドア派だ。 駆け出しのライターをしていると、こんなこともあるのですというお話です。 |
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